プロモーション業界団体PPAIは2026年4月、米国の関税政策に関する最新調査結果を相次いで発表した。ディストリビューターの85%がサプライヤーと価格交渉を実施、75%が中国以外への調達分散を検討しているという数字は、ノベルティ・販促品業界が歴史的な転換点にあることを示している。日本向けノベルティ調達に関わるすべての事業者にとって、この地殻変動は対岸の火事ではない。
現行の主要関税率:2026年時点の全体像
PPAIが整理した関税スケジュールは以下の通りだ。
| 生産国 | 関税率 | 適用状況・備考 |
|---|---|---|
| 中国 | 90日間休戦中 | 2026年8月12日が期限 |
| ベトナム | 20%(経由品40%) | 迂回品への追加課税あり |
| バングラデシュ | 35% | 8月から適用、アパレルに直撃 |
| カンボジア | 36% | 現行適用中 |
| インド | 25% | 現行適用中 |
さらに注目すべき追加措置として、銅への50%関税が8月1日から発動される。銅はUSBケーブル、充電器、金属製ノベルティに幅広く使用されており、IT系・ガジェット系ノベルティのコストに直接影響する。また、8月29日からはde minimis(少額免税)制度が廃止となり、低額小包もすべて関税対象になる。EC経由の小口輸入で調達していたノベルティも例外ではなくなる。
業界最大手のSanMarは2025年6月1日付で価格改定を実施し、ホンジュラスなど比較的低関税の国への生産移管を進めている。業界No.1がこの動きを取った事実は、サプライチェーン再編が単なる「検討段階」を超えて「実行フェーズ」に入ったことを意味する。
なぜ今、この影響が深刻なのか
1. 中国依存度の高さという構造問題
ノベルティ・販促品の製造において、中国は依然として圧倒的なシェアを持つ。ボールペン、エコバッグ、USBメモリ、モバイルバッテリー、ポーチ類など、多くのカテゴリーで中国製品が市場の大部分を占めてきた。低コスト・短納期・豊富なバリエーションという三拍子が揃う中国サプライチェーンへの依存は、ここ20年で深く構造化されている。
この依存度の高さが、関税政策の変動に対する脆弱性を生んでいる。90日間の休戦期間が終了し中国への関税が再び引き上げられた場合、代替先への切り替えには最低でも3〜6か月の準備期間を要する。調達先を即座に変えられない現実がある。
2. 代替国にも高い関税が課されている
「中国から移せばいい」という単純な解決策が通用しないのが今回の状況の深刻さだ。ベトナム20%、カンボジア36%、バングラデシュ35%——いずれも無視できない水準だ。特にバングラデシュは縫製・アパレル系ノベルティ(Tシャツ、トートバッグ、ポロシャツなど)の主要産地であり、8月からの35%適用はアパレルノベルティの調達コストを大幅に押し上げる。
ベトナムについては「経由品」への40%課税という措置も見逃せない。実質的に中国で製造しベトナム経由で輸出するという迂回ルートへの牽制であり、産地証明の厳格化が進むとみられる。
3. de minimis廃止が小口調達モデルを直撃
日本のノベルティ発注者の中には、AliExpressや海外ECプラットフォームを通じた小口仕入れを活用しているケースも多い。8月29日からのde minimis廃止は、こうした「少量・安価・スピード調達」モデルの崩壊を意味する。少量ロットでも関税申告と課税が必要になるため、コストと手間が急増する。
4. 日本向けノベルティ調達への波及
日本の企業がノベルティを発注する際、多くの場合は国内の販促品メーカーや商社を経由している。しかしそれらの仕入れ先は中国・東南アジアの工場であることが大半だ。つまり米国関税の影響は、米国向け製品だけの問題ではなく、グローバルなサプライチェーンを通じて日本向けノベルティの原価にも間接的に波及してくる。特にOEMで製造されるオリジナルノベルティは、仕様・金型・素材が特定の工場に依存しやすく、代替切り替えのコストが高い。
アパレルノベルティのブランド戦略についてはアパレルノベルティ戦略の記事で詳しく解説しているが、ブランド価値を守りながらコストを管理するアプローチが今後ますます重要になる。
具体的な対応策
1. 調達先の複線化を今すぐ始める
PPAI調査でディストリビューターの75%が「中国以外への調達分散を検討」と回答した事実は、業界全体の危機感を反映している。しかし「検討」を「実行」に移している企業はまだ少数だ。早期に動いた企業が交渉力・価格・納期の面で優位に立てる。インドやメキシコ、トルコなど関税の影響が比較的小さい国や地域への分散調達を検討する段階に入っている。
2. サプライヤーとの価格・条件の再交渉
調査ではディストリビューターの85%がサプライヤーとの価格交渉を実施している。コスト増を黙って受け入れるのではなく、数量コミットや支払い条件の見直しと引き換えに単価を維持・引き下げる交渉が有効だ。年間発注量を確約することでサプライヤー側も生産計画を立てやすくなり、Win-Winの関係を構築できる。
3. 在庫戦略の見直し——先行発注・まとめ発注
中国への関税が8月12日の休戦期限後に再び引き上げられることを想定するなら、休戦期間中に主力ノベルティの先行発注・まとめ発注を実行することでコストを固定できる。特に毎年定番で使用するアイテム(ボールペン、メモ帳、エコバッグなど)は在庫を持つリスクより価格変動リスクの方が大きい局面になってきた。
4. 国内製造・近隣国製造へのシフト検討
コストは上がるが、国内製造または日本に近い東アジア(台湾・韓国)製造に切り替えることで、関税リスクと輸送リスクを同時に低減できる。エシカル調達・サステナビリティの観点から「国産ノベルティ」を訴求できる付加価値もある。発注先選定のポイントについてはノベルティ業者の選び方ガイドを参照されたい。
5. OEM契約における価格変動条項の整備
OEMでオリジナルノベルティを製造する場合は、契約書に原材料費・関税率の変動に応じた価格調整条項を設けることが今後の標準になってくる。「固定単価・長期契約」モデルはサプライヤー側が受け入れにくくなっており、双方がリスクを分担する柔軟な契約設計が必要だ。
まとめ
2026年の関税環境は、ノベルティ・販促品業界にとって「コスト管理の問題」にとどまらず、「調達構造そのものの再設計」を迫るレベルの変化だ。PPAI調査が示す通り、業界の過半数がすでに戦略変更に動いている。中国への90日間休戦が終わる8月12日、バングラデシュへの35%関税が始まる8月、銅に50%関税がかかる8月1日、de minimis廃止の8月29日——2026年の夏は調達コストが一気に変動する可能性があるターニングポイントだ。今から準備を始めることが、秋冬のノベルティ発注コストを大きく左右する。
情報源:PPAI「New Tariff Rates Set to Take Effect」「Early Tariff Data: Most PPAI 100 Companies Tweak Strategies」
