福岡のWebAR事業者・株式会社HK STYLEが、2026年9月1日にローランド ディー.ジー.浜松本社で開かれる「LSINC Peri Discovery Day」にパートナー企業として出展する。360°ダイレクトプリントで全面に印刷したボトルへQRコードを載せ、スマートフォンのブラウザから商品紹介映像やキャラクター演出を呼び出す体験を実機で見せる内容だ。販促担当にとっての焦点は、印刷物とデジタル施策を別々に発注してきた前提が崩れる点にある。刷った時点で内容が固定されるはずの容器が、あとから中身を差し替えられる面に変わる。ノベルティを「配って終わり」の単価で積み上げてきた計算は、そのままでは通らなくなる。
展示の中身は「印刷済みのボトル」と「起動用のQR」の組み合わせ
HK STYLEは建築分野の3DCG・BIM・VR制作および教育事業と、WebARを使ったプロモーション事業を手がけている。同社のWebARソリューション「ONCARD」は、名刺・チラシ・ハガキ・商品パッケージ・グッズ・看板といった印刷物や実物の商品を起点に、動画やキャラクター、3Dコンテンツをスマートフォン上へ表示する仕組みだ。今回はその起点を、米国LSINC社の産業用360°ダイレクトプリンターで印刷したボトルに置いた。
体験の手順は同社の発表によれば単純で、スマートフォンでボトルのQRコードを読み込み、立ち上がったカメラをボトルに向けると、ラベル面から商品紹介や製造過程の映像、ブランドストーリー、キャラクター演出が現れる。アプリのインストールを必要としないことを、同社は購入者やイベント来場者がその場で体験できる条件として挙げている。もっともWebAR一般の仕様として、カメラが起動するブラウザはiOSならSafariかChrome、AndroidならChromeだと、AR制作会社の解説記事は開発側の条件によるという但し書き付きで案内している。告知物の案内文にはその前提を書き添えておく方が無難だ。
印刷面を広げる話ではなく、印刷面を入口に変える話
360°ダイレクトプリントの分かりやすい価値は、ボトル全面が使えるという面積の話に見える。ところがHK STYLEの提案はそこを逆に振っている。パッケージ上にすべての情報を記載しないための手段としてWebARを置き、印刷面には入口だけを残す設計だ。同社は季節やキャンペーンに合わせて表示コンテンツを変更することで、同じ商品パッケージから異なる情報や体験を届けられるとしている。
容器の面には限りがある。商品名や表示事項のように外せない要素を置いた残りが、ブランド側の使える面積になる。読ませたい情報を全部そこへ詰め込めば文字は小さくなり、削れば伝わらない。この配分の問題を、面積を増やす方向ではなく面の外へ逃がす方向で解こうとしているのが今回の提案になる。ARを絡めた販促自体は以前から語られてきたが(デジタルノベルティ2026|NFT・ARで若年層の心をつかむ販促術)、配布用のノベルティではなく商品本体そのものを起点にすると、接点の持ち主が販促部門から商品側に移る。予算も承認も別の部署を通ることになり、企画の立ち上げ方から変わる。
Periシリーズ3機種の性格差と、小ロット発注の現実味
印刷側の設備は、ローランド ディー.ジー.が2026年1月8日に発表したLSINC社とのグローバル販売パートナーシップに基づく。同社の発表によれば、Periシリーズはガラス・金属・木材などへの印刷に対応し、独自のUV制御技術によって透明なボトルにもバリア層なしで印刷できるとされる。3機種の位置づけは次の通り。
| 機種 | 位置づけ | 発表に記載された特徴 |
|---|---|---|
| PeriQ360 | 量産 | 4軸構造で4つのアイテムに同時印刷。1分間で約19本の加飾が可能。PRINTING United Expo 2025でPinnacle Product Award受賞 |
| PeriVallo360m | 難形状 | 輪郭追従プリントテクノロジーを搭載。ワインボトルの首〜肩部分など複雑な曲面や先細り形状に対応 |
| PeriOne | 小ロット・試作 | 手軽な操作性と導入しやすい価格。小ロット生産、パーソナライズグッズ製作、試作に対応 |
ノベルティ発注の目線で効くのはPeriOneの位置づけだ。小ロット生産とパーソナライズが最初から想定用途に入っている以上、周年記念の少数配布や商談用サンプルのように、容器の名入れを諦めていた本数帯が検討範囲に入る。ただし当日の案内対象には受託プリント会社が並んでおり、設備を導入する側と、その設備で刷ってもらう側が分かれる前提で告知されている。ノベルティの発注側が印刷機に直接触れる想定にはなっていない。
展示前の時点で、当事者が表明している立場
提携を発表した際、ローランド ディー.ジー.の常務執行役員でCSOのアンドリュー・オランスキー氏は、LSINC社のダイレクト印刷システムが自社の技術ポートフォリオを広げ、パッケージング・飲料・コスメティックといった産業で顧客のカスタマイズ印刷ビジネスに競争力をもたらすとの見方を示した。LSINC社CEOのアリシア・ライアン氏は、ローランド ディー.ジー.を自社の技術と存在感を広げていく上での理想的なパートナーだと位置づけている。
当日のプログラムには、ローランド ディー.ジー.CEOの田部井祥平氏、米国LSINC社CEOのアリシア・ライアン氏の登壇に加え、海外事例紹介、各機種の紹介、印刷機デモとサンプル紹介、Q&A、国内ユーザーの声が並ぶ。HK STYLE代表取締役の木村華氏は「プロモーションを進化させる 繋がる体験 WebAR × AI」と題して登壇する。案内されている対象は飲料ブランド、容器メーカー、パッケージメーカー、ラベルコンバーター、受託プリント会社、商品開発担当者で、ノベルティ制作会社は名指しされていない。この技術がノベルティ文脈に降りてくるかどうかは、発注側が先に手を挙げるかで決まる。
Wトリガーを自社に移植すると、最初に詰まるのは在庫の方だ
展示のもう一つの軸が「Wトリガー」だ。HK STYLEの説明では二種類の体験を想定している。ひとつはNFCを搭載したカードやアクリルグッズにスマートフォンをかざしてコンテンツを起動し、その状態で対象のボトルをカメラに映すと、組み合わせに応じた限定コンテンツが表示される形式。もうひとつは、AのボトルのQRコードから立ち上げたカメラでBのボトルを映すと通常と異なるコンテンツが出る形式で、単体ではそれぞれの商品紹介、2種類が揃ったときだけコラボ映像や限定メッセージが現れる仕組みだとしている。
販促の設計図として読み替えると、これは購入の閾値を金額ではなく組み合わせで置く手法になる。購入額に応じてノベルティを段階的に出す設計はすでに一般的だが(ChroNoiR8周年POP-UP、購入額連動ノベルティの設計)、金額閾値はどのSKUを積んでも成立するという融通が効く。組み合わせ閾値にはそれがない。指定した2品が同じ買い物のなかで揃って初めて起動するため、片方が欠品した時点で体験そのものが立ち上がらなくなる。
したがって在庫計画がコンテンツ制作より前に来る。金額閾値なら総売上を読めば足りたところ、組み合わせ閾値では「ペアが成立する本数」を読む必要がある。売れ行きの速い側が先に切れれば、遅い側は体験を起動できないまま棚に残る。複数商品を束ねて買い回りを促す設計はコンビニ側でも組まれているが(パペットスンスン×セブン-イレブン|パン&スイーツ7品+限定グッズ+Happyくじを束ねた多層ノベルティ設計)、対象品目を広く取る施策は一部が欠けても達成できる。対象を2品に固定するWトリガーは、その逃げ道がない分だけ欠品の影響を直接受ける。演出の中身を詰める前に、ペア在庫の補充ルールを決めておく方が事故は少ない。
NFCグッズが「起動キーとして残る」ことの意味
NFCグッズとボトルを組み合わせる方は、ノベルティ側の位置づけを変える。カードやアクリルグッズが起動キーとして手元に残るなら、そのグッズは配って終わりの販促物ではなく、次の商品でも使える鍵になりうる。HK STYLEは表示コンテンツを季節やキャンペーンで変更できるとしており、同じグッズの参照先を差し替える運用は仕組みの上では成り立つ。ただし今回の発表は展示予定の内容までで、実運用の成績や鍵の使い回しについて同社は触れていない。ここは自社で試すなら検証項目として立てる部分になる。
業界への波及は、印刷とデジタルの発注線引きに出る。HK STYLEは印刷とデジタルを分けて考えず、商品の企画段階から両者を組み合わせる可能性を提示している。印刷会社、容器メーカー、AR事業者、ノベルティ商社がそれぞれ別に見積もりを出す従来の分業のままでは、体験全体の設計責任がどこにも置かれない状態になりやすい。商品本体に刷る以上、容器は流通在庫として企画の終了後も店頭に残る。企画が終わったあとに読み込まれたとき何を出すのかを、印刷側と体験側のどちらの見積もりに含めるのか。相見積もりを取る前に、その線を自社で引いておくほうがいい。
参加と検討に必要な実務情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | LSINC Peri Discovery Day |
| 開催日時 | 2026年9月1日(火)13:00〜17:00 |
| 会場 | ローランド ディー.ジー.株式会社 浜松本社(静岡県浜松市) |
| 主催 | ローランド ディー.ジー.株式会社 New Market Office |
| 参加費 | 無料(事前登録制) |
| 案内対象 | 飲料ブランド、容器メーカー、パッケージメーカー、ラベルコンバーター、受託プリント会社、商品開発担当者など |
| 出展パートナー | 株式会社HK STYLE(福岡県福岡市/代表取締役 木村華) |
| 展示予定 | 商品紹介・プロモーション映像、製造過程の映像、キャラクターや画像の出現、タップで変化するインタラクティブ演出、NFCグッズとボトルの組み合わせ体験、2種類のボトルの組み合わせ体験 |
| 体験に必要なもの | スマートフォン(アプリのインストールは不要)とQRコードの読み取り |
価格やロットの下限、ONCARD導入時の費用条件は今回の発表に記載がない。見積もりが必要なら、印刷側と体験側で窓口が二系統に分かれる点も押さえておきたい。
まとめ
この発表は製品の発売告知ではなく、9月1日の実機デモに向けた展示予告にとどまる。だからこそ、いま動ける範囲は限られている。自社で試す価値があるかを判断するなら、先に社内で三つを決めておくと当日の見方が変わる。刷る内容のうち何年変わらないのか、コンテンツの差し替えを誰の業務にするのか、組み合わせ体験を狙うなら揃わなかったときにどう見えるのか。この三点が答えられない状態で見積もりを取ると、ARの演出案だけが先に膨らむ。
参加は無料の事前登録制で、対象案内にノベルティ制作会社は入っていない。飲料や化粧品の容器を扱う立場でなくても、キャラクターグッズやノベルティへの活用がHK STYLEの想定に含まれている以上、販促側から出向いて質問をぶつける価値はある。まずは自社の定番品のうち、円筒形で全面印刷が効きそうな一品目を持って登録するところから始めたい。
参照元:PR TIMES(株式会社HK STYLE)/ローランド ディー.ジー./COCOAR
最終更新:2026.07.28
