富山県滑川市のスギノマシンが2026年10月13日、国内拠点とグループ会社に在籍する約1,470名の社員に、2026年産の新米を1人2kgずつ配り始めた。品種は富山県のブランド米「富富富(ふふふ)」。創業90年の感謝と、物価高のなかでの家計支援を兼ねた取り組みで、同社としては初めての実施になる。米を作ったのは、同じ滑川市で田を続ける元社員の夫妻だった。
配る相手が消費者ではなく自社の社員なので、応募フォームも当選者数も先着の線も出てこない。それでも数量の決め方、渡す場所と日付の分かれ方、現物で渡すときの税務の線引きは、社外向けの販促で踏む手順とほぼ同じところで止まる。発注側から読めるところを順に見ていく。
2kgに約1,470名を掛けた2,940kgは玄米60kgの俵で49俵ぶんだ
全員配布は、企画を立てた時点で数量が確定する。1人2kgに約1,470名を掛けると2,940kg、玄米60kgの俵に直すと49俵ぶんになる(本記事の計算)。消費者向けのキャンペーンなら先着や当選者数で上限を置いて在庫を切るが、社内配布では名簿の人数がそのまま発注数になる。渡さない相手を作れないので、上限を下げて調整する逃げ道が無い。
調達側から見ると、2,940kgは1戸の農家にとって小さい数字ではない。米の値段は、直前の年産が過去最高を付けた一方で足元は下がっている。農林水産省が公表する相対取引価格の集計では、令和7年産の全銘柄平均は年産平均の速報値で玄米60kgあたり35,451円、前年産の25,179円から4割ほど上がった。ただし月別では2025年10月の37,058円がピークで、2026年6月には31,305円まで下げ、2026年7月の32,486円は取引量が細ったことによる反発とされている。2026年産の概算金はさらに低く、新潟の一般コシヒカリが玄米60kgあたり18,500円など、前年産を3〜4割下回る水準で出ている。2,940kgを2026年7月の32,486円で置き換えると約159万円、概算金の18,500円で置き換えると約91万円。1人あたり2kgは600円台から1,100円前後の幅に入る。スギノマシンの実際の取引条件は公表されていないので、金額はあくまで公表価格を当てた試算にとどまる。
食品のノベルティとしては、単価が低くて数量が多い側に振れている。ホテルのVIP向け焼き菓子が50缶から受けられて缶は発注側が用意する案件と並べると、個数は30倍近く、1個あたりの金額は逆方向だ。配り先が社内に閉じているぶん、見栄えを足す予算を内容量に回せる。
手渡しは本社と早月と滑川の3か所で県外の拠点は届き次第になった
配布日は10月13日。富山県内の本社と早月事業所、滑川事業所では当日その場で渡し、県外の拠点は米が届いてからの受け取りになる。本社の玄関では杉野岳社長が、労働組合執行委員長の金盛拓也さんに米を手渡した。写真が撮れる1か所と、同じ日には受け取れない拠点が同時に存在する形だ。
社外の販促でも同じ分かれ方が起きる。全国の店舗で同日スタートをうたった企画は、初日に物が届かない店が必ず出る。先着何名を店舗ごとに置くか全体で置くかで、遅れて届いた店の来店客が不利になるかどうかが変わる。配布物が食品なら、告知に出す日付を「開始日」ではなく「各拠点に届き次第」と書き分けておいたほうが、問い合わせの電話は減る。
時期の選び方も米の性質に沿っている。精米してからの時間は味に出るので、新米が上がってすぐの10月に配れば、精米時期が新しいまま手元に渡る。同じ企画を夏に動かすと、保管条件と精米のタイミングを先に決めておく必要が出てくる。
作ったのは滑川の山あいで田を続ける元社員の阿波加幹雄さん夫妻だ
生産者は阿波加幹雄さんと妻の2人。元スギノマシンの社員で、いまは滑川市の山あいで米を作っている。田には剱岳を含む山々の雪解け水が入る。2026年は8月末から9月にかけての雨で稲刈りが難しかったという。地域では高齢化と後継者の不在で米を作る家が減ってきたことも、リリースのなかで本人が触れている。
品種の富富富は2018年に登場した富山県のブランド米で、栽培できる生産者には県の登録要件がある。倒伏しにくく病気に強い性質を狙って開発された品種で、作り手が限定されている以上、産地と品種を指定した発注は相手が自動的に絞られる。1,470名分を1戸に寄せるという選び方は、来年も同じ量を頼めるかという話とセットになる。
同じ米を福利厚生に使う形でも、組み方は1つではない。ファストコムは2018年に秋田県鹿角市の農家の協力で全社員への米の支給を始め、2025年5月1日からは福利厚生サービス「UCHINO」として他社への提供を開始した。社員1人あたり月3kgを推奨し、消費しきれない分を会社に返納して子ども食堂や福祉施設へ寄付する仕組みを持つ。年に1回2kgを渡す単発と、毎月3kgを動かす定期では、調達の契約も保管場所も別の話になる。周年の記念品として1回だけ配るのか、毎月の仕組みに変えるのかを最初に決めておかないと、2年目に農家側の作付け計画が合わなくなる。
阿波加さんはリリースのなかで、おいしいと言ってもらえるように作ったので味わって食べてほしいと話している。配り先が元の職場というだけで、受け取る側の反応は物の説明より先に伝わる。
創業記念品は処分見込価額1万円以下でおおむね5年以上の間隔なら課税されない
社員に物を渡すときは、給与として課税されるかどうかが先に来る。国税庁の説明では、創業記念品は3つの条件をすべて満たせば課税しなくてよいとされている。記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること、処分見込価額による評価額が消費税等を除いて1万円以下であること、創業記念のように一定期間ごとに行う行事での支給はおおむね5年以上の間隔であること、の3点だ。
2kgの米を公表価格で置き換えた600円台から1,100円前後という水準は、1万円の線からは離れている。90周年という間隔も5年以上にあたる。一方で、同じ国税庁の説明は、記念品の支給に代えて現金や商品券を渡した場合には全額(商品券なら券面額)が給与として課税されるとしている。本人が好きな物を自由に選べる形にしたときも、その記念品の価額が課税対象になる。
販促の相談で「配る物を決めるのが面倒だからギフトカードにしたい」という置き換えが出ることがあるが、社内配布ではこの差が受け取る側の手取りに直結する。物にするかカードにするかを決める前に、経理と扱いを合わせておきたい。ここは一般論で、個別の判断は所轄の税務署や税理士に確認する領域になる。
社員への配布に取引価額は無いが米袋の表示は発注側が決める
社外向けなら、購入を条件にした景品には景品表示法の総付景品や取引価額の考え方が関わってくる。あの枠組みは商品やサービスの取引に付随して提供する景品類を対象にしているため、社員への記念品をそのまま同じ計算に乗せる話ではない。購入金額の線を引く必要がないかわりに、名簿の人数が発注数になる。この線引きは各社の提供の形で変わるので、消費者向けの企画と並行して動かすときは個別に確認しておく。
消費者向けで全員に配る設計は、数量が読めないところが難所になる。日本テクノが応募者全員にエコカレンダーを配った企画は、応募が集まるほど製造数が膨らむ構造だった。povoが景品に通信データを選んだ企画は、在庫も物流も持たずに当選者数を出せる形にしている。社内配布はこの2つの悩みが先に消えるかわりに、物として配る以上は袋の中身と表示が残る。
米の袋には食品表示基準で項目が決まっている。名称、原料玄米の産地と品種と産年、内容量、精米時期、販売者の氏名や名称と住所が並ぶ。かつての精米年月日は精米時期に替わり、令和4年4月1日以降に精米したものは精米時期での表示が必須になった。農産物検査の証明を受けていない玄米でも産地や品種、産年を表示できる形に改まっていて、その場合は表示の根拠となる資料を残すことが前提になる。
米をノベルティに使うなら、袋に社名やロゴを入れる前にこの表示欄の置き場所が決まる。販売者として誰の名前を出すのか、精米と袋詰めを委託するなら表示内容の責任をどちらが持つのかを、見積もりの段階で詰めておく。オリジナルの袋を作るか、生産者側の既存の袋にシールを足すかで、小ロットの単価も変わる。
49俵を1戸に頼む判断は、作る家が減った地域で来年も同じ量が出てくるかという問いと地続きだ。スギノマシンの配布が今年だけの90周年の催しで終わるのか、阿波加さんの田の作付けに毎年の注文として入るのかは、ここから先で分かれる。
参照元
- PR TIMES・株式会社スギノマシン「家計を応援!スギノマシンが社員に初めて『スギノ米』を配布」
- 国税庁・タックスアンサー No.2591「創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」
- 農林水産省「玄米及び精米の表示について」
- 補助金ポータル「米の価格推移」(農林水産省の相対取引価格をもとにした集計)
- マイナビ農業「ファストコムの福利厚生サービス『UCHINO』」
最終更新:2026.10.14
