TOPPANやネスレ日本など6者が、神戸市の資源回収拠点「エコノバ」4か所に専用ボックスを設置し、これまで燃やすごみとして処理されていた紙パッケージの回収を2026年7月22日に始めた。集まった紙資源は紙糸へ加工され、ハンカチなどの製品として回収に協力した市民へ寄贈される予定だという。販促担当が読み解くべきはハンカチそのものではなく、その手前にある回収動線の作り方だ。単独の企業では敷けない市民接点を、自治体がすでに運営している拠点に相乗りする形で確保している。原料の調達と配布の設計が地続きになるノベルティ企画にとって、この座組みは分解する値打ちがある。
神戸市の4拠点に置かれた専用ボックス
名称は「紙パッケージの再資源化のしくみ構築プロジェクト」。期間は2026年7月22日から2027年3月31日まで。参画するのはTOPPAN、一般社団法人アップサイクル、ネスレ日本、サラヤ、大本紙料、神戸市の6者だ。
回収の対象は「ネスカフェ エコ&システムパック」各種、「ヤシノミ洗剤」の詰め替え用パッケージ、「アラウ.ベビー泡全身ソープ」「HE液体洗たく用洗剤」のパッケージ。設置先は神戸市中央区のエコノバあづま、長田区のエコノバふたば、北区のエコノバほくしん、西区のエコノバいぶきにしの4か所で、市内の区をまたいで散らしてある。集めた紙資源は、一般社団法人アップサイクルが進める「TSUMUGI」の仕組みで紙糸に加工される。
防水加工の紙容器が焼却に回っていた事情
詰め替えパックのような紙パッケージは、中身を守るために防水加工を施した複合素材になっている。サラヤはこの構造ゆえに再資源化が難しく、これまで燃やすごみとして扱われてきたと説明している。紙に見えるのに紙として回せない、という状態が長く続いてきたわけだ。
サラヤ自身は1982年に日本初の台所用洗剤の詰め替えパックを発売した企業で、詰め替え容器を世に広げた側でもある。使う量を減らす方向の設計は進んだ一方、使い終わった後の受け皿は空いたままだった。今回はその穴を、製造側ではなく回収側から埋めにいく組み立てになっている。
神戸市側にも前段がある。市は2026年1月6日から3月31日まで、エコノバふたばとエコノバあづまの2か所で、ヨーグルトやアイスクリームの紙容器を対象にした回収実証を実施していた。今回は拠点を4か所に増やし、対象品目を洗剤・コーヒーの紙パッケージへ振り替えている。いきなり本番を張ったのではなく、2拠点の実証を挟んでから広げた順番になる。
6者が持ち寄っているものを並べる
| 参画者 | 担っている役割 |
|---|---|
| TOPPAN | 全体管理、回収ボックス製作、広報・啓発活動の企画実行 |
| 一般社団法人アップサイクル | しくみ設計、アップサイクル製品の製作、広報・啓発 |
| ネスレ日本 | 自社紙パッケージの回収・資源化のしくみづくり、広報・啓発 |
| サラヤ | 自社紙パッケージの回収・資源化のしくみづくり、広報・啓発 |
| 大本紙料 | 紙パッケージの回収、知見の提供 |
| 神戸市 | 回収場所の提供、ボックスの管理・運用、市民広報 |
目を引くのは、どの一者も全工程を持っていない点だ。原料を出すのはブランド2社、回収の現場を回すのは神戸市東灘区に本社を置く古紙リサイクルの大本紙料、場所と市民への告知は神戸市、製品化のしくみは社団法人、全体を束ねて広報を設計するのがTOPPAN。ノベルティの発注に置き換えると、素材提供・物流・接点・製造・進行管理が別会社に分かれた状態に近い。1社で完結させようとすると必ずどこかが欠ける構造を、最初から分業前提で組んでいる。
参画各社が示した立ち位置
TOPPANは、パッケージを起点にしたサステナブルブランド「SMARTS」の展開の一環として本件を位置づけていると説明している。印刷・パッケージの会社が、作る側から回す側へ役割を広げた格好だ。
一般社団法人アップサイクルは、循環型社会づくりのハブとして参画企業・団体の資源や技術を結集する立場だと説明する。2023年2月の設立で、参画は50を超える企業・団体に広がっている。特定企業の私的な取り組みではなく、参加者を足していける器として設計されている点が、この座組みが成立する前提条件になっている。
神戸市は、エコノバを「新しいリサイクルに挑戦するため、プラスチックを中心としたごみを資源として回収する場所」だと説明している。市の動機は燃やすごみの削減と市民啓発であって、企業側のブランド訴求とは出発点が違う。大本紙料は神戸市東灘区に本社を置く古紙・廃棄物リサイクルの事業者で、今回は回収実務と、これまでの回収知見の提供を担う。動機の異なる6者を1本の動線に乗せるところが、この企画の実務的な難所だったはずだ。
回収動線は自前で作らなくていい
ここからが販促担当への示唆になる。この設計で最も再現価値が高いのは、回収拠点を自社で作っていないことだ。市民が資源を持ち込む習慣はすでにエコノバ側にある。企業が新しい場所を借り、告知して人を呼ぶのではなく、人が来る場所に箱を1つ足しただけで動線が立ち上がっている。自社店舗を持たないメーカーが市民との物理接点を得る手段として、これは相当に安い。
次に対象品目の絞り込み。「紙パッケージ全般」と広げず、4製品に限定している。回収物が混ざるほど選別の手間が増え、原料としての質は落ちる。ノベルティの原料に回す前提なら、素材の均一性は製造ロットの成立条件そのものだ。参加条件を絞って入口を狭くする代わりに、集まったものの質を担保する。キャンペーンの応募条件で使う閾値の考え方が、そのまま原料側に効いている。
三つ目が在庫設計で、ここは通常の販促と向きが逆になる。ノベルティは数量を先に決めて発注し、先着何名という形で配るのが普通だ。菓子3点購入で先着ステッカーを配る施策(明治×ハイキュー!!|菓子3点買うと先着ステッカー&819名抽選)のように、原価も数量も発注の時点で確定している。今回は原料が市民の持ち込み量に左右されるため、製造枚数を先に置けない。リリースが配布数を書かず、協力者への寄贈を予定という表現に留めているのは、その裏返しだろう。数量を確約しない配布条件の文言を先に用意しておくことが、この型を採るときの最初の作業になる。
四つ目は接触の回数。持ち込みと受け取りの間に時間差があるので、1回の施策で2回以上ブランドに触れる構造が自然にできる。複数拠点を回らせて特典を渡す回遊型の設計(2店舗を回ると特製タオル、あみあみ秋葉原の周年回遊キャンペーン)と発想は近い。違うのは、回遊させる先が自社店舗ではなく公共施設で、来場コストを企業が負担していない点にある。
最後に期間。7月22日に始めて翌年3月31日で終える区切りは、自治体の会計年度に合わせた形だ。自治体と組む販促は、キャンペーンの都合ではなく年度で切れる。裏を返せば、持ち込みの提案は年度の予算編成に間に合う時期に出す必要があるということでもある。夏の販促を年度内に立ち上げたいなら、逆算はかなり早い。
原料の出どころが発注条件に入りはじめる
素材そのものを訴求点に置くノベルティは確実に増えた。麦わらを約60%配合した脱プラのソーイングキット(麦わら約60%配合、脱プラのエコソーイングキットをホテルへ)のように、配合や由来を具体的に語る商品が並んでいる。素材の由来を説明できること自体が、販促物の価値の一部として扱われはじめている。
紙糸そのものの仕様にも触れておきたい。TSUMUGIは使用後の紙資源と未利用の間伐材を紙糸に加工する取り組みで、天然繊維ならではの柔らかさ、軽量性、吸放湿性が特徴とされる。一方で混率や加工工程の詳細はリリースに示されていない。採用を検討するなら、風合いや洗濯後の状態はサンプルで確かめる前提で動くのが妥当だ。
そしてリリースは、CO2削減量や削減率といった環境数値を一切出していない。回収して、紙糸にして、製品にする、というプロセスだけを示す構成になっている。根拠を示せない環境数値は、表示の当否を問われたときに守りようがない。個別の判断は法務の領域だとしても、書かなければその論点自体が立たない。数字がないから弱い、と読むのは早い。語れる範囲で止める書き方の見本として、コピーを書く側が一番模倣しやすい部分がここだ。
供給規模の制約も付いてくる。市民の持ち込みに依存する原料は量が読めないので、数十万個規模の全国キャンペーンには乗らない。周年記念品、株主向け、社内配布、地域限定イベントといった中小ロットが、現実的な入口になる。
持ち込み拠点と実施条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 拠点1 | エコノバあづま(神戸市中央区吾妻通/コミスタこうべ) |
| 拠点2 | エコノバふたば(神戸市長田区二葉町/ふたば学舎2F) |
| 拠点3 | エコノバほくしん(神戸市北区藤原台北町/リサイクル工房ほくしん) |
| 拠点4 | エコノバいぶきにし(神戸市西区井吹台西町/井吹西地域交流センター) |
| 実施期間 | 2026年7月22日〜2027年3月31日 |
| 対象パッケージ | 「ネスカフェ エコ&システムパック」各種、「ヤシノミ洗剤」詰替用、「アラウ.ベビー泡全身ソープ」、「HE液体洗たく用洗剤」 |
| 回収後の用途 | 紙糸へ加工し、ハンカチなどの製品へ。協力者への寄贈を予定 |
| 実施主体 | TOPPAN/一般社団法人アップサイクル/ネスレ日本/サラヤ/大本紙料/神戸市 |
まとめ
この案件を自社に引き寄せるなら、動く順番は決まっている。まず自社の主力販促エリアに、市民が定期的に足を運ぶ資源回収拠点があるかを確認する。次に回収対象を1〜2SKUに絞り、選別の手間と原料の均一性を先に確保する。その上で、数量を確約しない配布条件の文言を法務と詰めておく。環境数値を出さずに成立する訴求文の型を、企画書の段階で用意しておけば差し戻しは減る。
ハンカチ1枚のために6者が動いたのではない。焼却されていた素材を、企業の販促物として使える原料に変える経路を1本通したことに意味がある。自社単独では作れない回収網は、借りられる。神戸の4か所は、その借り方の実例を年度末まで見せ続ける。
参照元:PR TIMES(TOPPANホールディングス)/サラヤ株式会社 ニュースリリース/神戸市「エコノバ(資源回収ステーション)」/AMP
最終更新:2026.07.28
