ライオンが10月13日、使用済みハブラシを原料にした再生素材を「板材」の形で初めて展示すると発表した。会場はコクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」1階のBOXX、会期は10月14日から16日まで、入場は無料で事前予約制。板材から生まれたプロダクト見本として、壁掛け型と置き型の看板、コースター、ハブラシの持ち手が並ぶ。配る物を作ったという話ではなく、素材を売る側に回るという発表で、販促の発注側から見ると、指定して買える再生素材の選択肢が一つ増えるかどうかという読み方になる。
1,724ヵ所と33.5トンは同じ集計範囲の数字ではない
今回のリリースは「回収拠点は全国1,724ヵ所に拡大し」「累計33.5トン(約268万本、2026年5月時点)」を並べて書いている。ところがライオンが6月15日に出した11年間の実績報告を読むと、1,724という数は生活者向けの「ハブラシ・リサイクルプログラム」の登録拠点数で、集計期間は2015年6月から2026年4月、その回収実績は30.2トン(約242万本)だった。
33.5トンという数字は、これに自治体連携とアスクルとの連携を足した活動全体の値になる。自治体は4件で、墨田区が47ヵ所で1,226kg、板橋区が47ヵ所で1,317kg、台東区が50ヵ所で599kg、明石市が16ヵ所で249kg。合わせて160ヵ所、約3.4トンで、30.2トンに足すと33.5トンに届く。つまり拠点数のほうも、自治体分を加えれば1,884ヵ所という別の数が出てくる。本数への換算はハブラシ1本あたり12.5gでの試算だと、ライオン自身が注記している。
この手のずれは、回収実績を自社の販促物の説明文に引き写すときに必ず効いてくる。店頭のPOPに「全国1,724ヵ所で集めた33.5トン」と書くと、2つの違う母数を1行に同居させることになる。松坂屋静岡店が回収衣料をオーナメントにした取り組みでも、告知に出ていた319.4トンは店単位の実績ではなく、大丸・松坂屋のエコフ活動全体の2025年度回収量だった。発表側が併記している数字を、どの範囲の数字なのか確かめずにコピーするのが一番危ない。
直近1年で増えた原料は6.5トンで、1拠点あたりは月20本ちょっと
伸び方を同じ基準でそろえて見ると、2025年6月5日の10年報告では累計27.0トン(約216.8万本、2025年5月時点)で、1年後が33.5トン。差は6.5トン、本数にして約52万本。生活者向けプログラムだけを取り出しても、2025年4月時点の1,621登録・24.8トン(約198.6万本)から1,724登録・30.2トンへ動いており、1年で103拠点と5.4トン(約43万本)増えている。10年かけて24.8トンだった平均ペースは年2.5トン前後で、直近1年はその2倍以上に上がっている。
ただし1拠点あたりに落とすと見え方が変わる。43万本を1,724拠点で割れば年に250本ほど、月に20本ちょっとにしかならない。学校や店舗に回収箱を置いても、1か所から出てくるのは月20本規模だという意味で、だから拠点を1,000ヵ所単位で持たないと素材にならない。
販促の企画側にとって重要なのは、年に増える原料が6.5トンという絶対量のほうだ。仮に1個50gの小物に1年分の増加量を全量振り向けても、計算上は13万個台で止まる。1kgがハブラシ80本分なので、50gの小物1個はハブラシ4本分。全員配布で数十万個という規模の企画は、素材側がそもそも追いつかない。実際のアップサイクル案件の数量感はもっと小さく、FDAが旧制服をポーチ30個とマルチケース50個にした例のように二桁で設計されることが多い。発注する側は、再生素材を使う企画を数千個単位で見積もり始めた時点で前提を疑ったほうがいい。
ライオンは7社の参加企業ではなく協賛11社の側で、板材の告知は会期前日だった
この展示はライオンの単独企画ではない。主催はREMARE、共催がコクヨとカウネットで、クリエイティブディレクターにNAO IWAMATSUが入る。REMAREが9月2日に出した告知では、デザイナーと組む参加企業がカンロ、コクヨ、デンソー、日東工業、フジシールインターナショナル、三坂ライト工業、三菱電機の7社で、ライオンはカリモク家具や東急電鉄などと並ぶ協賛11社の側に名前がある。ライオン自身も今回のリリースで、協賛企業としてハブラシから生まれた板材を初展示すると書いている。板材の告知が出たのは10月13日で、関係者限定のメディア内覧会が置かれた日と同じ、一般公開の前日にあたる。
持ち込まれる廃材の素性も7社でばらばらだ。キャンディのパッケージ廃材、ソフトリングノートの樹脂端材、自動車部品の廃材、ブレーカなど電材部品に含まれる廃材、ペットボトルラベルの端材、学校給食や病院向けのFRP製トレイ、廃家電に含まれる樹脂と使用期限切れのヘルメット。いずれも工場や事業所から出る産業側の廃材で、生活者の手から回収拠点を経由して戻ってくる系統はライオンのハブラシのほうだ。素材としての均質性では産業廃材に負けるが、「自分が出した物が戻ってきた」という線をたどれるのはこの系統だけで、売場の説明としては強い。
素材探しで行くなら、デザイナーとの協業プロダクトが並ぶ参加7社の展示と、ライオンのように自社の素材そのものを持ち込む協賛側の展示を、別の棚として見て回る前提で予定を組むほうが合う。会場には完成品とあわせて廃材の粉砕サンプルも並ぶ。会期は3日間、最終日は17時で閉まる。
カリモクの座面には6mm厚の板をはめ込み、チェアでは曲げている
板材で何ができるかは、同じREMAREが9月30日に出したカリモク家具との取り組みに手がかりがある。Castor Stool Plusの特別モデル7脚は、座面中央を円形に削り抜き、各社の廃材から生まれた再生プラスチック板をはめ込む構造で、この板の厚みが6mm。Castor Chairの1脚では、再生マテリアルを曲げ加工して座面から背もたれまでの曲面を作っている。展示限りの一点物ではなく、リピート生産を前提とした仕様で作ったとしており、素材の調達状況に応じた受注生産体制を整えて販売につなげることを検討中だという。
削って抜く加工と曲げる加工の両方が通っているなら、今回のコースターは板からの抜きか切削、看板は板の切り出しと取り付けで収まる範囲に入る。新規に成形用の型を起こす案件と違って、板から取る加工は初期費用が軽い。原価で効いてくるのは素材そのものの単価より、板1枚から何個取れるかという歩留まりと、切削・仕上げの手間、それに固定方法を含む設計の工数になる。コースターのような小面積の物は板の端材からでも取れるが、看板は1枚物の寸法に縛られる。
注意しておきたいのは柄が揃わない点だ。ライオンが見せる板材は2種類で、一方は細かく砕かれたハブラシの破片が白い素材と混ざったもの、もう一方はハブラシ由来のペレットと破片が混ざったグレー基調のマーブル模様。どちらも入ってくる廃材の色構成で見た目が動くため、ブランドカラーの再現や複数ロットでの色合わせは前提にできない。企業カラーで揃える必要がある案件には向かず、1点ずつ柄が違うことを企画の売りに変えられるかどうかで採否が分かれる。
REMAREは9月17日から廃プラの登録データベースを無料で開放している
自社から出る廃材を販促物に回したい会社にとって、入口はデザインの検討ではなく棚卸しのほうにある。REMAREは9月17日に「Plasticstockデータベース」の無料提供を始めており、廃棄予定のプラスチックの素材情報、排出場所、写真を登録して社内で一元管理できるとしている。利用料は無料でユーザー数の制限もなく、工場・事業所・店舗・オフィスのように拠点や部署が分かれている会社を想定している。何がどこで月に何kg出ているかが分からないままでは、板材にするにも量が読めない。
素材側が先に手を挙げて用途を募る動きは他にもあり、不易糊工業とmizuiroがデンプン主原料のバイオ素材で用途を募った件も同じ形をしている。素材の持ち主が加工先を探しているタイミングは、発注側から見れば少量でも相談が通りやすい時期にあたる。
ライオンは今回の展示で建築・インテリア・店舗什器といった領域での市場性とB2Bでの事業性を検証し、再生素材の販売を通じた事業性を追求するとしている。看板、コースター、ハブラシの持ち手という3点の並び方を見ると、配布物より先に売場のサインと什器で売る順番が選ばれている。年に増える原料が6.5トンという水準なら、量を必要とするノベルティより、1店舗に1枚で足りる看板のほうが先に成立する。来場して素材を見るなら、コースターの質感より板材2種の色の振れ幅を確かめておくと、後の企画で詰まりにくい。
参照元
- PR TIMES・ライオン「ライオン、使用済みハブラシ由来の再生素材を「板材」として初展示」
- PR TIMES・ライオン「ライオン「ハブラシリサイクル」活動、11年間の実績報告」
- ライオン ニュースリリース「ハブラシリサイクル」活動10年の実績報告
- PR TIMES・REMARE「再生プラスチックは「実験から実装へ」。7社 × 気鋭デザイナーが挑む展示」
- PR TIMES・REMARE「REMARE×カリモク家具、7社の廃材から生まれる家具」
- PR TIMES・REMARE「企業の廃棄プラスチックを一元管理する「Plasticstockデータベース」の無料提供」
最終更新:2026.10.15
