7月31日、新宿マルイ アネックス6FでTVアニメ『ゴールデンカムイ』のPOP UP SHOPが開く。会期は8月9日まで、そのあと8月15日から30日まで神戸マルイ5Fへ移る。販促の担当者が読むべきなのはグッズの中身ではなく、告知文の末尾に置かれた2行だ。関連商品を2,000円(税込)以上買うと1会計につき1回、ハズレなしの抽選会に参加でき、エポスカードを提示するとさらに1回引ける。IPが呼び込んだ来場者を丸井グループのカード会員へ移し替える導線が、この短い条件文に畳み込まれている。
2,000円で1回、エポスカード提示でもう1回
主催はアニメ・漫画グッズを扱うAMNIBUS(運営は株式会社arma bianca)。今回は「戦う背中」をコンセプトにした新規描き下ろしイラストのグッズを揃える。入場は無料で、神戸マルイは8月19日が休館日にあたる。抽選会の景品はキャンバスボードからポストカード1枚まで3等級に分かれ、ハズレがない。参加した来場者は必ず何かを持ち帰る。公式は「※A賞は好きな柄を先着でお選びいただけます」とも書いており、等級は抽選で決まるがA賞の絵柄は選ばせる形だ。
条件文には注意書きが並ぶ。公式サイトは「※エポスカードはご本人様以外ご利用いただけません」と書き、続けて「※新規ご入会も会場にて承りますのでご利用ください」と案内する。さらに「※ご提示の場合、お支払方法は現金もしくはエポスカード決済に限ります。」という一文があり、提示だけで追加1回が付くとはいえ、支払手段は現金かエポス決済の2つに絞られる。前者は名義本人に限る縛り、後者は会員でない来場者に会場での入会手続きを促す一文だ。エポスカードは年会費無料でマルイ店頭での即日受け取りを掲げているが、当日入会した人がその場で受け取ったカードを提示して追加の1回を引けるかどうかまでは、イベント告知に書かれていない。会場で確かめたい。
昨年の「戦う背中」は3,000円だった
「戦う背中」はゴールデンカムイのための一度きりの企画名ではない。2025年8月から9月にマルイ3店舗を巡回した「黒子のバスケ 戦う背中ver.ストア in マルイ」でも同じ言葉が使われ、A賞はやはりキャンバスボード全2種だった。違うのは入口の高さで、黒子のバスケは3,000円(税込)以上が抽選1回の条件。エポスカード提示で追加1回という構造を据え置いたまま、閾値だけが1,000円下げられている。
比較対象はもう1本ある。「夏目友人帳エポスカード」のデビューを記念したPOP UP SHOPは、2026年6月13日の有楽町マルイを皮切りに、なんばマルイ・博多マルイ・モレラ岐阜・スマーク伊勢崎の計5会場を8月23日まで巡回する(7月27日時点は会場と会場のあいだの空き期間にあたる)。抽選会は3,000円(税込)以上で1回。追加1回のトリガーは「提示」ではなく「利用」、実際に決済することを求めている。新規入会者にB賞と同じポストカード全6種のセットを渡す運用も、会場によって案内された。カード名を冠した企画だけあって、入会と決済の両方に踏み込んでいる。
3本を並べると、マルイの売場でIPポップアップに与えられた変数が見える。購入金額の閾値、追加1回のトリガー(提示か利用か)、入会特典の有無。購入額に連動して景品を段階化する手法は他会場でも回っていて(ChroNoiR8周年POP-UP、購入額連動ノベルティの設計)、マルイの場合はそこにカード会員という第2の軸が重なる。
| イベント | 会期 | 抽選1回の購入条件 | 追加1回の条件 |
|---|---|---|---|
| 黒子のバスケ 戦う背中ver.ストア in マルイ | 2025年8/2〜9/28(3店舗) | 3,000円以上 | エポスカードを提示 |
| 夏目友人帳エポスカード デビュー記念 POP UP SHOP | 2026年6/13〜8/23(5会場を巡回) | 3,000円以上 | エポスカードを利用(新規入会特典の案内あり) |
| TVアニメ『ゴールデンカムイ』POP UP SHOP in マルイ | 2026年7/31〜8/30(2会場) | 2,000円以上 | エポスカードを提示(支払いは現金かエポス決済に限る) |
単価表に当てると、2,000円は1,980円の商品を弾く
閾値を下げた意味は、実際の商品価格に当てると輪郭が出る。公式サイトが掲げる単価は440円のトレーディングコンパクトクリアカードから3,300円の特大アクリルスタンドまで。トレーディング系のBOXは缶バッジ7,260円・クリアカード5,280円・コースター10,560円で、単価で割るといずれも12個分になる。
| 商品(税込) | 単価 | 2,000円に届く最少点数 | 支払額 |
|---|---|---|---|
| トレーディングコンパクトクリアカード | 440円 | 5点 | 2,200円 |
| トレーディングホログラム缶バッジ | 605円 | 4点 | 2,420円 |
| 75mmグリッター缶バッジ | 770円 | 3点 | 2,310円 |
| トレーディングアクリルコースター | 880円 | 3点 | 2,640円 |
| BIGアクリルスタンド | 1,980円 | 1点では届かない | — |
| 特大アクリルスタンド | 3,300円 | 1点 | 3,300円 |
目を留めたいのはBIGアクリルスタンドの1,980円という値付けだ。2,000円に20円届かない。この1点だけでは抽選券が出ず、440円のクリアカードを足せば2,420円で条件を満たす。閾値が3,000円だったころは、1,980円に880円のコースターを足しても2,860円で届かず、2点では超えられない価格帯が生まれていた。2,000円という高さは、いちばん動きやすい単価帯を1点手に取った人を、あと1点だけ動かす位置に置かれている。
1会計につき1回という区切りも効く。公式は「税込2,000円ごとではございません」「いかなる場合もご精算を複数回に分けることは出来かねます」と書き、金額を積んでも回数は増えず、会計の分割そのものも断っている。購入金額ごとに景品を積み増す累進型(ポムポムプリン30周年POP-UP、3,300円購入ごとにクリアファイル進呈)とは客単価の伸ばし方が逆で、こちらは低い閾値を一度だけ越えさせ、余った動機をカード提示のほうへ回している。
丸井グループはイベントを会員獲得の数字で語っている
この設計が単発の思いつきでないことは、丸井グループ自身の説明で裏が取れる。2026年3月期第2四半期の決算説明会で同社は、直近3年間でイベント開催数が年間約6,000回に拡大し、うち「好き」を応援するイベントが1,300回を占めると示し、「上半期の「好き」を応援するイベントの売上高は52億円で、前年比46パーセント増です」と述べた。そのイベント経由の新規会員数は6万人、前年比39%増。催事の売上と会員獲得が、同じ売場で同時に立っている。
カード側の実績も出そろっている。2026年3月期通期のエポスカードは新規会員87万人(前年差+6万人)、期末会員830万人(同+41万人)でいずれも過去最高だった。同社は「好き」を応援するカードを130企画・会員126万人まで広げ、そのLTV(生涯利益)は一般カードの2〜7倍、若年層構成比61%と説明している。イベントで獲る会員は、単価の高い会員でもあるという整理だ。
IPとカードを直結させた実例が、株式会社エポスカードが2026年6月12日に発行を始めた「夏目友人帳エポスカード」だ。年会費永年無料で、寄付機能付きデザインについては「ご利用金額に応じて付与されるエポスポイントのうち、ご利用金額の0.1%分を、支援金として熊本県人吉市へお渡しします」と案内し、発行に合わせて5会場のPOP UP SHOPを走らせた。AMNIBUSが自社の告知に会員募集の一文を書くところまで含めて、権利元・主催者・カード会社・商業施設の四者がひとつの売場で別々の目的を満たしている。
自社カードがない会社が持ち帰れる部分
読者の多くは自社発行のクレジットカードを持たない。それでもこの設計は分解して使える。核は、ひとつの購入行動に性質の違う報酬トリガーを2枚重ねる構造にある。1枚目は閾値で、2,000円はキリの良さではなく主力商品の単価から逆算されている。自社で組むなら、抽選や特典のラインは「平均客単価より少し上」ではなく、売れ筋1点の価格をわずかに上回る位置に置く。
2枚目のトリガーには、自社が本当に欲しい行動を入れる。マルイはそこにカード提示を置いた。自社でやるなら公式アプリのインストール、会員登録、LINEの友だち追加、次回来店の予約が入る。条件は、その行動が会場で完了することだ。入会手続きまで会場で受けると告知に書いてあるのは、行動を持ち帰らせないための措置に見える。QRコードを貼って終わりにせず、完了まで面倒を見るスタッフを1人置けるかで結果が変わる。
3つ目は在庫。ハズレなしの抽選は参加者全員に景品が出るので、必要数は参加回数の総計と一致する。カード提示の追加1回がある以上、参加回数は購入者数を上回りうる。消化の速度も読みにくく、購入者特典のガチャが約1時間で175個を出し切った例もある(購入者特典ガチャ175個が約1時間で完売、岩槻朝顔市の体験型販促)。ゴールデンカムイのケースはA賞・B賞・C賞で単価を散らし、いちばん軽いC賞のポストカード1枚を厚く積んで総量を吸収する。等級を刻むのは演出のためだけでなく、原価と在庫の弁として働く。
4つ目は会期の割り方。東京10日間、神戸は休館日を除く15日間という2会場構成は、1か所に在庫と行列を集中させない。複数店舗を回らせて単価を伸ばす回遊型と違い、巡回型が動かすのは接触する母集団そのものだ。
催事区画の評価軸が「歩合」から「入会数」へ動く
マルイのケースが示すのは、商業施設がIPポップアップを催事の売上ではなく会員獲得の単価で測り始めている点だ。半期6万人という新規会員の数字は、催事区画の原価を説明する材料になる。この軸は出展側の交渉材料にもなる。売上歩合だけで条件を詰めず、施設の会員獲得にどれだけ寄与するかを示せれば、区画や館内告知の露出を引き出す余地が出る。若年層構成比61%を掲げる相手なら、若い来場者を連れてくる企画の値打ちは施設側の言葉で説明できる。
逆にIP側が渡すものもある。抽選の追加1回がカード提示に紐づく限り、その体験は施設のブランドに帰属する。ファンの記憶に残るのは「マルイに行くと1回多く引ける」で、IP側が積み上げたい記憶とは別物だ。夏目友人帳のように券面まで組むか、グッズ販売だけを切り出すか。同じ売場に立っても、終わったあとに手元へ残る資産は分かれる。
会期・会場・条件の一覧
| 項目 | 新宿マルイ アネックス | 神戸マルイ |
|---|---|---|
| 会期 | 2026年7月31日(金)〜8月9日(日) | 2026年8月15日(土)〜8月30日(日) |
| 会場 | 東京都新宿区/6F | 兵庫県神戸市中央区/5F |
| 営業時間 | 平日・土曜 11:00〜19:00/日曜・祝日 10:30〜19:00(入場無料) | |
| 休館日 | なし | 8月19日(水) |
| 抽選会の条件 | 関連商品2,000円(税込)以上で1会計につき1回(金額を積んでも回数は増えず、精算の分割も不可)。エポスカード提示でさらに1回(名義本人のみ/提示時の支払いは現金かエポスカード決済に限る/会場で新規入会の受付あり) | |
| 抽選の景品 | A賞キャンバスボード全2種(F3号 220mm×273mm・好きな柄を先着で選択可)/B賞ポストカード全12種コンプリートセット/C賞ポストカード全12種からランダム1枚 | |
| 事前予約 | 7月31日の一部時間帯でLINEアプリによる事前予約制(先着) | 告知なし |
| 主催・問い合わせ | AMNIBUS(株式会社arma bianca)の問い合わせフォーム | |
まとめ
自社の催事やポップアップを控えているなら、告知文の条件2行を書き直すところから手を付けたい。作業は3つ。売れ筋商品の単価表を並べ、抽選や特典のラインを主力1点の価格をわずかに上回る位置へ置き直すこと。追加特典のトリガーに、その場で完了できる自社の獲得行動を1つだけ入れること。ハズレなしにするなら等級を3段階に刻み、最下位等級の単価を最も低く設定して総量を吸収すること。
ゴールデンカムイのPOP UP SHOPは7月31日に新宿で開き、8月30日に神戸で閉じる。見に行けるなら、抽選台の位置とレジからの動線、そして入会の受付がどこに置かれているかを確かめてほしい。条件文だけでは読み切れない設計は、たいてい床の使い方に出る。
参照元:コラボカフェ/AMNIBUS公式イベントページ/コラボカフェ(黒子のバスケ)/コラボカフェ(夏目友人帳)/PR TIMES(エポスカード)/ログミーFinance(丸井G決算説明会)/流通ニュース/丸井グループIR/エポスカード公式
最終更新:2026.07.28
